戦後から現代までの日本史【第六章/第五回】

6.5 民主党政権と政治の転換点

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戦後から現代までの日本史【第六章/第四回】

戦後から現代までの日本史【第六章/第四回】

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6.5.1 歴史的政権交代と「期待で勝った選挙」

2009年――ついに起きた。政権交代。
自民党が下野し、民主党が第一党となって政権を握るという、戦後日本政治史の中でも最大級のドラスティックな変化。
あの選挙は、政治ではなく「希望への投票」だった。というか、たぶん“自民以外”なら何でもいいという、国民の疲れと怒りの意思表示だった1

この政権交代劇、結果から言えば「実験場でドミノ倒しを始めた」みたいな展開になるんだけど、まずはその背景を押さえておこう。
自民党は長期政権によって既得権益まみれの老舗旅館と化し、改革を言いながら中身は何も変わらず、年金記録問題、政治とカネ、相次ぐ首相の短命、そしてリーマンショックでの対応の鈍さ――これらすべてが「もう無理」感を国民に植え付けていた。

そこに登場したのが、「コンクリートから人へ」をスローガンに掲げた民主党2
高速道路無料化、子ども手当、ガソリン税の暫定税率撤廃…
今思えば、予算の物理法則を無視した夢の福袋みたいなマニフェストだったが、当時は「なんかすごそう」という期待が渦巻いていた。

6.5.2 鳩山・菅・野田の迷走政治と失われた実行力

鳩山由紀夫が首相に就任し、いざ新政権がスタートすると、空気は一変する。
実務、グダグダ。
予算編成の方法すら曖昧。官僚排除を掲げたはいいが、その代わりになる知見も調整力もない。
結果、「政治主導です!(なお中身は手探り)」という危なっかしい運転が始まる。

中でも象徴的だったのが、普天間基地移設問題3
「最低でも県外」と言っておきながら、どこも受け入れ先が見つからず、最終的に元の案に戻るという政治的自爆芸。
アメリカとの関係も微妙になり、国内でも「え、何がしたかったの?」という空気に。
鳩山首相は「トラスト・ミー」と言い放ち、信頼を完全に失って終了。

次に登場したのが菅直人。
増税に踏み込み、「財政再建か成長か」で国民の支持を割り、東日本大震災の対応で評価を落とし、「判断は早かったが方向が悪かった」という珍しいタイプの失点を重ねて退場。

そしてトリを務めたのが野田佳彦。
消費税増税を決断したものの、結果的に自民に手柄を渡すという謎のパス回しを披露し、民主党政権は2012年、再び自民に政権を明け渡すことになる4

6.5.3 政治不信と政権交代の“トラウマ”化

この3年3カ月は、日本政治において一つの「教訓という名のトラウマ」を刻むことになる。

  • 政治は理想だけでは動かない
  • 素人が実権を握ると国家運営は回らない
  • 官僚の力を完全に排除すると、誰も現場を動かせなくなる

何より、「政権交代」という希望が潰えたことが大きかった。
これは、単に民主党が失敗したというより、「変えようとしても無理なんだ」という空気が国全体に広がったことが深刻だった5

その後、政治への関心は冷え、投票率は下がり、「誰がやっても一緒」論が主流になる。
つまり、民主党政権は「日本における政治的チャレンジ精神の終焉」でもあった。
実験は失敗した。でも誰も次の方法を持っていない。
国民はまた、慣れ親しんだ自民党に戻るが、そこにあったのは改善ではなく“既知の安心感”だった。

第七章:東日本大震災と平成の終わり(2011〜2019)

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リーマンショックと世界経済危機(2007〜2011)

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参考:
戦後日本経済史 日本経済新聞社 (編集)
平成はなぜ失敗したのか 「失われた30年」の分析 野口悠紀雄(著)
政党政治の混迷と政権交代 樋渡 展洋 (編集), 斉藤 淳 (編集)
最新版 改正労働者派遣法がわかる本 【全条文付】 大槻 哲也 (監修), 加藤 利昭 (著)
リーマン・ショック・コンフィデンシャル上 追いつめられた金融エリートたち 上下 アンドリュー ロス ソーキン (著), 加賀山 卓朗 (翻訳)
日本銀行と政治 金融政策決定の軌跡 上川龍之進 (著)
日銀漂流 試練と苦悩の四半世紀 西野 智彦 (著)
リーマン・ショック 元財務官の回想録 篠原 尚之 (著)
政権交代の内幕 上杉 隆 (著)
民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか? 神保 哲生 (著)
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