4.2 雇用不安と就職氷河期の始まり

目次

• 4.2 雇用不安と就職氷河期の始まり
  • 4.2.1 バブル崩壊後の新卒絶望期と就職氷河期世代の誕生
  • 4.2.2 非正規雇用の常態化と「成果主義・自己責任」の社会
  • 4.2.3 雇用不安が生んだ構造的格差と未来への諦め

戦後から現代までの日本史【第四章/第一回】

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4.2.1 バブル崩壊後の新卒絶望期と就職氷河期世代の誕生

バブル崩壊によって企業が本業どころか存続自体にヒーヒー言い始めると、当然ながら最初に切られるのは「未来への投資」――つまり、若者の雇用だった。1990年代半ばから始まったこの現象が、いわゆる就職氷河期である¹。別名、「人生、いきなりハードモード期」。氷河期という表現がまだ優しいくらいで、実態は就職版のサバイバル・ホラー。どこに内定があるか分からない、敵は人事部と景気指数²。

バブル期の企業は「来る者拒まず」で大量採用していたが、崩壊後は真逆。「新卒は取らない」「取っても数人」「中途採用も控えめ」。結果、大学生は面接をハシゴし、履歴書を書いては不採用通知に埋もれた。企業の説明会はまるでフェス、内定はSSRレベルのレアドロップ³。1990年代後半の就職戦線は“実力”より“運”の世界になっていた。

4.2.2 非正規雇用の常態化と「成果主義・自己責任」の社会

特に1993年〜2005年頃に新卒期を迎えた世代は、まともな雇用の入り口すら開かれていなかった。彼らは「ロストジェネレーション（失われた世代）」と呼ばれ⁴、正社員になれず派遣や契約、アルバイトといった不安定な雇用形態に追いやられるケースが続出。“とりあえず働く”ことはできても、“人生を設計する”ことができない社会構造が形成された。

問題はこれが「数年の辛抱」では済まなかったことだ。終身雇用の土台が揺らぎ、非正規雇用が“臨時措置”から“恒常化”へと変化。正社員のポストは減少し、パート・派遣労働者の割合は増加。企業は「雇わないこと」をコスト削減の基本戦略として採用し、人件費を固定費から変動費へとシフトした⁵。要するに「人間を使い捨てのコスト」と見なす体制が、ここで合法化されていった。

この背景には、政府の雇用政策の迷走もある。労働市場の柔軟性向上を掲げ、1995年に「新時代の日本的経営」が経団連から発表され⁶、いわゆる“成果主義”“自己責任”の流れが加速。1999年には労働者派遣法が改正され⁷、派遣可能業種が拡大、2000年代には製造業への派遣も解禁された。これが後に“派遣切り”や“ネットカフェ難民”という言葉につながる、まさに現代日本労働地獄のプロローグである。

4.2.3 雇用不安が生んだ構造的格差と未来への諦め

就職氷河期世代の問題は、単なる雇用統計の話ではない。これは社会のスタートラインが崩壊したという意味で、日本社会に構造的なダメージを残した。高卒、大卒を問わず、まともな初職に就けなかった人々は、その後のキャリア形成に大きな支障をきたし、現在に至るまで格差が固定化された⁸。住宅ローンも、結婚も、子育ても、全部“雇用の安定”が前提だという現実に、多くが跳ね返された⁹。これはもう“自己責任”なんかじゃない、社会設計のバグである。

そして、彼らが社会に対して抱えた失望感は深く、政治的無関心、経済への悲観、結婚・出産の回避など、あらゆる面で「国の未来」に影を落とす結果となった¹⁰。氷河期は単なる気候じゃない。社会の新陳代謝が止まり、凍りついていたという事実を忘れてはならない。

就職氷河期は「若者が希望を持てなくなった」時代であり、その痛みは現在進行形で続いている。あのとき彼らに用意されたのは“挑戦の場”ではなく、“選ばれし者だけが正社員になれる大喜利形式の椅子取りゲーム”だった。で、椅子はどんどん減らされる。勝てるか¹¹。

戦後から現代までの日本史【第四章/第三回】

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参考：
戦後日本経済史　日本経済新聞社 (編集)
バブル:日本迷走の原点　永野 健二 (著)
平成はなぜ失敗したのか 「失われた30年」の分析　野口悠紀雄（著）
デフレの正体 経済は「人口の波」で動く　野口 悠紀雄 (著)
就職氷河期世代 データで読み解く所得・家族形成・格差　近藤絢子 (著)
就職氷河期世代の経済学　永濱利廣 (著)