EUにおけるドイツの役割とは? 【第1回:経済】

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欧州連合・ドイツ

目次

1. ドイツ経済がEU全体に与える影響

ヨーロッパ連合(EU)という巨大な枠組みにおいて、ドイツは単なる加盟国以上の存在だ。地理的な中心性、人口規模、そして何よりも経済力を背景に、EU内では“事実上のリーダー”と呼ばれることもしばしば。だが、その存在感は果たして一方的な覇権主義か、それとも安定と成長をもたらすエンジンなのか。その答えを探るには、まず経済の視点からドイツを眺めてみる必要がある。

EUのGDPの約25%を占めるドイツ経済1。これは単に「豊かです」レベルの話ではない。ほかの加盟国が何をするにしても、「で、ドイツがそれに乗るのか?」が最初の一手となる。会議のたびに「またドイツが口を出すのか」という空気が流れるほどには影響力があり、同時に「ドイツが黙ってると何か不安」でもあるという、めんどくさいポジションである。

特に製造業を中心にした産業構造と、EU諸国との経済的相互依存性は高く、その関係性は単なる輸出入の枠を超えて“構造的共生”とも言える段階に達している。ここでは、以下の三つの視点からドイツ経済がEU全体にどう影響を与えているのかを検討する。


1-1. ドイツ製造業とEU市場のつながり

ドイツの製造業は、いわばEU経済の“筋肉”である。メルセデスやBMWに代表される自動車産業はもちろん、産業機械、化学製品、電子機器など、その製品群は多岐にわたる。2020年代に入っても「ドイツ製」は品質の象徴であり、それは言い換えればEU諸国が日々「ドイツに部品を頼み、完成品を売り合う」共依存関係にあるということだ。

例えば、チェコ、ポーランド、スロバキアといった中東欧諸国では、ドイツ企業の工場が地域経済を支えており2、雇用や技術移転の面でも重要な役割を果たしている。製造業のバリューチェーンが国境を超えて構築されているため、もはや「ドイツの成功はEUの成功」であり、逆もまた然り、という構図が定着している。

ただし、ここで見落としてはいけないのは、この構造が「ドイツ主導」の色を帯びすぎていること。部品供給側の国々はしばしば「低コスト労働力」としての位置づけに甘んじることになり、経済格差や社会的緊張の温床にもなりうる。要するに、ドイツ経済の恩恵にあずかりつつも、時にそれは“優しい支配”として認識されることもあるというわけだ。いやほんと、良かれと思ってやってるけど、周りがついてこれてない問題。


1-2. EU経済政策におけるドイツのリーダーシップ

EUの経済政策、とりわけ財政規律に関する議論では、ドイツの存在は無視できない。いえ、無視したらたぶん会議終わりません。マーストリヒト条約や安定・成長協定(SGP)など、EU財政のルールを設計した背景にもドイツ的な「健全財政」思想が色濃く反映されている3

特にユーロ圏では、「財政赤字の制限」「インフレ回避」といった原則がドイツの影響下にある。なぜなら、ドイツは歴史的にインフレにトラウマがあり(はい、1920年代のヴァイマル共和国の記憶です)、今でもその反動で財政保守主義を貫いている。つまりEUの財政政策は、集合的な合意というより“ドイツの価値観に周囲が調整してる”構図でもある。

とはいえ、2020年のコロナ危機を受けて、ドイツは一時的にそのスタンスを柔軟化し、復興基金(NextGenerationEU)においては共同債券発行に同意するなど、意外な“歩み寄り”も見せた。この変化は「ドイツもついに心を入れ替えた」とはしゃぐ人もいれば、「それでも基本は変わらんでしょ」と冷めた目で見る人もいる。

現実としては、リーダーとしての責任と、国内政治の狭間で、ドイツは常に“最も嫌われるけど必要な国”のポジションを生きている。部下には睨まれ、上にはられ、でも報酬で報われることは少ない。EUのリーダーとは、そんな中間管理ポジションである。


1-3. ユーロ危機とドイツの対応:成功と課題

ユーロ危機(2009〜)は、ドイツがリーダーとしての器を問われた試金石だった。ギリシャ、スペイン、ポルトガルなどが財政破綻の危機に直面したとき、EUは存亡の危機を迎えた4。ここで“財布を握っている”ドイツが何をしたかというと、はい、お金出しました。でも一筋縄ではいきませんでした。

ドイツは救済には応じつつも、「改革をしない国には援助しない」「財政規律を守れ」という、ちょっとスパルタな姿勢を貫いた。支援と引き換えに構造改革を求め、対象国には痛みを伴う緊縮政策が課された。これが一部では「道徳的帝国主義」と揶揄されたのも事実で、ギリシャではドイツに対する反感がピークに達した。

とはいえ、結果としてEUは解体を免れ、ユーロも生き残った。それはひとえに、嫌われ役を買って出たドイツの覚悟あってこそとも言える。が、その過程で生まれた分断や不信感は今なお尾を引いており、ドイツが経済的な“救世主”か“独善的な施政者”なのか、その評価は割れる。結局のところ、ドイツの対応は「リーダーってつらいよね」という感想で締めくくられるべきかもしれない。成功の代償は孤独であり、信頼の代償は疑念なのだ。

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参考:

世界最強の女帝 メルケルの謎 佐藤 伸行 (著)

EU共通農業政策改革の内幕: マクシャリ-改革,アジェンダ2000,フィシュラ-改革 アルリンド クーニャ (著), アラン スウィンバンク (著)

ドイツを知るための60章 早川 東三 (著), 工藤 幹巳 (著)

ヨーロッパ統合史 名古屋大学出版会

  1. 2023年でドイツはEU最大の経済規模を持ち、2位約17%のフランスを大きく引き離している。
  2. フォルクスワーゲン(VW)などのドイツ企業は東欧に多くの生産拠点を持ち、雇用とインフラ開発に貢献している。
  3. 安定・成長協定(SGP)は、ユーロ圏加盟国に対して財政赤字をGDP比3%以内、公的債務を60%以内に抑えることを求める枠組み。ドイツが推進した。
  4. ギリシャ危機では、国債利回りの急騰と財政赤字隠蔽が発覚し、ユーロ圏全体の信用が揺らいだ。ユーロが紙切れになりかけた。

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