EUにおけるドイツの役割とは? 【第3回:文化】

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欧州連合・ドイツ

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EUにおけるドイツの役割とは? 【第2回:政治】

EUにおけるドイツの役割とは? 【第2回:政治】

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3. ドイツ文化とEU統合への影響

文化とは、国家のアイデンティティを形づくる“見えにくい柱”だ。EUのような多国籍共同体においては、経済や政治以上に繊細で、扱いを間違えると一瞬で分断の火種になる。言語、歴史、宗教、芸術……そういった要素が各国ごとに違うからこそ、統合は難しく、でもやる価値がある。

ドイツはこの「文化統合」の分野においても、積極的な役割を果たしてきた。ただしそのやり方は、フランスのような「文化は誇り!」というノリではなく、「文化は共有資産である」というやや冷静な、でも誠実な態度。そう、理屈っぽいけどちゃんとやる。それがドイツの文化アプローチ。

ここでは、次の3つの観点からドイツ文化とEU統合の関係を掘り下げる。


3-1. ドイツ文化政策とヨーロッパ文化遺産

ドイツはEU内で文化遺産保護のリーダー的役割を担っている。というのも、第二次大戦後の反省を踏まえ、「文化の多様性と寛容」を国家レベルで推進してきた背景がある。ナチス時代に文化がどれだけプロパガンダとして悪用されたかを身をもって知っているため、その反動で今は文化の自由と多元性をかなり本気で守っている1

EUの「ヨーロッパ文化首都」制度(毎年1~2都市が選ばれる)でも、ドイツの都市は度々選出されており2、欧州全体の文化交流を促進している。ベルリン、エッセン、ドレスデンなどは、単なる観光名所ではなく“文化の対話の場”として活用されている。観光客に生温いビールとソーセージだけ与えてるわけじゃない。

また、ドイツは“文化の分権”も重視しており、連邦制の特性を活かして各州が独自に文化政策を展開している。これによりEUレベルのプロジェクトにも柔軟に対応できるし、他国に「中央集権モデルだけじゃないんだぜ」と軽くマウント取れる(実際取ってる)。

その一方で、「文化を守る」という大義名分のもと、少々堅苦しい印象を持たれることも。たまに芸術家から「ドイツの補助金制度、条件が多すぎて自由じゃない」と愚痴が出るあたりが、“ドイツらしい文化政策”の限界かもしれない。なんでも規格化しようとするクセ、ちょっと抜けない。


3-2. 移民問題とドイツのEU文化政策への影響

2015年、ドイツが中東・アフリカからの難民を大規模に受け入れたとき、「文化的衝突」の懸念はEU全体に波及した。ドイツ一国の決断が、他の加盟国にまで影響を及ぼすという点で、これは文化政策の新たな試練となった。

「ウィルクムメンスクルトゥア(Willkommenskultur:歓迎文化)」という美しい言葉が一時期話題になったが、その後は社会統合の課題や右派の台頭という、わりと現実的な問題が浮き彫りに3。つまり、文化的寛容と国家アイデンティティのバランスをどう取るか、ドイツはEUの縮図のような状態になっていたわけだ。

EU文化政策においても、ドイツは「多文化主義を推進しながら、ヨーロッパの共通価値を維持する」という、どこか矛盾した立場にある。他国(特に東欧の保守的な国々)からは、「お前たちが文化を壊しているのでは?」という非難もあったし、逆にリベラルな国々からは「もっとやれ」と背中を押された。もう誰を信じていいのか分からない政治的文化カオス。お疲れさまです、ドイツさん。

とはいえ、長期的に見ればこの経験はEUにとって貴重な“実験”でもあった。文化的融合がどれほど困難で、それでも挑む価値があるのかを、ドイツが身をもって示したのだから。たまには勇気をほめてあげようか。ほんのちょっとだけね。


3-3. ドイツ語の普及とEU内での存在感

最後に、言語の話。EU内で最も母語話者が多いのが実はドイツ語だって、ご存知でした?フランス語でも英語でもない。しかもEU内のいくつかの国では第二言語としても広く使われている4。つまり、「英語以外で一番聞かれる外国語=ドイツ語」ってこと。これ、静かなる文化の覇権です。

ただし、ドイツ語は正直ちょっととっつきにくい。文法は複雑、単語は長い、発音はドスが効いてる。ドイツ語学習者の多くが「あ、もういいです…」って途中で脱落するのも割とよくある話。でもその“難しさ”ゆえに、できる人はそれだけで一目置かれるという不思議な現象が生まれている。

EU機関の中でも、ドイツ語は公式言語として採用されているが、実務では英語優勢の場面が多い5。これにドイツはややご不満のようで、「英語ばっか使ってると文化の多様性が失われるぞ?」と遠回しに主張する姿勢を見せている。いやまあ、それもわかるけど…
一方で、国内では“英語化の波”に焦ってるという、二枚舌にも見える構造がある。このへん、文化的アイデンティティと現代社会のバランスに四苦八苦してる感じがちょっとかわいい。

まとめるとドイツ文化は、EU統合の中で“静かに強い”存在だ。表立って派手なことは少ないが、制度・哲学・価値観のレベルでしっかり浸透している。真面目すぎてちょっと面白い。堅いけど、芯がある。誰かが言ってたけど、「文化的には地味な優等生」、まさにそれ。

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参考:

世界最強の女帝 メルケルの謎 佐藤 伸行 (著)

EU共通農業政策改革の内幕: マクシャリ-改革,アジェンダ2000,フィシュラ-改革 アルリンド クーニャ (著), アラン スウィンバンク (著)

ドイツを知るための60章 早川 東三 (著), 工藤 幹巳 (著)

ヨーロッパ統合史 名古屋大学出版会

  1. ナチス政権は芸術や映画、文学を徹底的に検閲・統制し、「退廃芸術(Entartete Kunst)」とみなされたものを排除した。
  2. 過去に選出されたドイツの都市にはベルリン(1988年)、エッセン(2010年)、カールスルーエ(2021年)などがある。
  3. この概念は特にメルケル政権下で広まり、一時はドイツの移民政策の代名詞となったが、2016年のケルン大晦日事件以降、批判も強まった。
  4. ドイツ語はオーストリア、ルクセンブルク、ベルギーの一部、スイス、さらには東欧の学校教育でも広く採用されている。
  5. EUの公式言語は24あるが、欧州委員会や欧州議会での業務では主に英語・フランス語・ドイツ語が用いられている。英語の使用頻度が突出しているのは実務効率による。

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