EUにおけるイタリアの役割とは? 移民政策【第二回】

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EUにおけるイタリアの役割とは? 経済危機【第一回】

EUにおけるイタリアの役割とは? 経済危機【第一回】

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2. 移民問題とイタリアのEU政策

イタリアは、地理的に見ても「地中海の受付嬢」みたいなポジションにある。アフリカや中東から命がけでヨーロッパを目指す移民たちは、まずイタリアを目指してボートで渡ってくる。観光業では「陽気なイタリア人があなたを歓迎します!」みたいなノリだが、移民政策では「また来たよ…」という疲れたリアクションが現実だ。

この「第一到達国」という立場により、イタリアはEU全体の移民問題において常に前線に立たされてきた。2015年以降の移民危機では、リビアを経由する不法移民の流入が急増。地中海に浮かぶ難民ボート、国境での混乱、収容施設の飽和など、見て見ぬふりのできない問題が山積している。

にもかかわらず、EU内での「責任の分担」はどこか曖昧だ。ドイツやフランスが時折「連帯」を口にするが、イタリア側からすると「言うだけで手は動かさないじゃん」という話になりがち。
以下、地中海ルートの現状、EUの共同移民政策とのすれ違い、そしてイタリア国内政治への爆弾のような影響まで、3つに分けて見ていく。


2-1. 地中海ルート:イタリアが直面する移民危機

イタリアに押し寄せる移民の大半は、「中央地中海ルート」と呼ばれるルートを使ってやって来る。主にサハラ以南のアフリカ諸国から、まずはリビアやチュニジアへ向かい、そこから密航業者の小さなボートで地中海を渡るという命がけの旅だ1

このルートは、過去10年以上にわたりEUにとって最大の移民課題のひとつだ。2024年だけで、イタリアには15万人以上の移民がこのルートを使って上陸している2
ちなみに、「たった15万人か」と思ったなら、これは日本の年間難民認定数(200人とか)とは比較にならない規模だと記憶しておいてほしい。
島の収容施設はパンクし、港では対応に追われる自治体職員が「誰か助けてくれ」状態。ボランティア団体はフル稼働。海軍はパトロール。もはやこれは人道危機であり、行政キャパシティを超えた「国家規模の綱渡り」である。

さらに問題を複雑にしているのは、移民の中には経済目的で渡ってくる人もいれば、戦争や政治的迫害から逃れてきた難民もいるという点3。全員一括りにして「ノー」とは言えないし、かといって全員ウェルカムにする余裕もない。イタリアはこの「グレーゾーン」で常に判断を迫られてきた。


2-2. EU共同移民政策とイタリアの要求

「これだけ移民受け入れてるんだから、そろそろEUみんなで何とかしようよ」というのが、イタリア政府の基本スタンスだ。
でも、EUの移民政策、特に「ダブリン規則」には大きな問題がある4

この規則では、移民が最初に到着した国がその人の難民申請を処理する責任を負う。これが何を意味するかというと、「イタリア、お前が全部面倒見ろ」という構図になってしまうわけ。イタリアからすると、「は?地理的に先に着いちゃっただけでしょ?こっちはEUの玄関口ってだけで、受付じゃねぇぞ」と言いたくなる。

もちろん、EUも完全に無視してきたわけではない。2015年以降、難民の強制分担制度の提案や、移民の再分配プログラムなどが打ち出されたが、ポーランドやハンガリーなど一部の加盟国が「いや、うちでは受け入れませんけど?」と反発5。結局、制度の実効性は限定的だった。

イタリアはこうした状況に何度も怒りを爆発させ、EU首脳会議の場でもたびたび不満を表明してきた。最近では、「移民流入の抑制」よりも「人道的な対応と公平な分担」を求める声が強くなっている。

それでもEU全体としては、移民問題に対して本腰を入れることが難しい。なぜなら各国が抱える事情も違えば、政治的な支持基盤もバラバラだから。つまり、イタリアの「助けて!」が、EUの「知らんがな」にぶつかって、膠着状態になるわけ。ほんと、ファミリーって難しい。


2-3. 移民受け入れとイタリア国内政治への影響

移民問題は、イタリア国内の政治を劇的に動かす爆弾でもある。移民が増えれば、それを支持基盤にする極右政党が勢いづく6。2022年に政権を取ったジョルジャ・メローニ率いる「イタリアの同胞」も、まさにその流れを象徴する存在だ。

彼女たちは、EUの移民政策に対して「お前らのせいでウチが苦しんでるんだ」と批判し、国民には「我々が国境を守る」とアピール。その強硬な言説は、一部の有権者にとっては「やっとハッキリ言ってくれる政治家が出てきた」と感じさせる効果を持つ。

ただ、現実には国際法やEUルールの枠内でしか動けないため、強硬策にも限界がある7。そのため、政治的パフォーマンスと実際の政策の間にギャップが生じることもしばしば。つまり「移民に厳しいふりをするが、実務的には結構手詰まり」という、ありがちな中途半端政治劇場が展開されている。

このように、移民問題はイタリア国内の右派・左派の争点であり続け、またEUとの摩擦点でもある。解決には「魔法の政策」など存在せず、どちらかと言えば「どれだけ損を分かち合えるか」の粘り強さが試される局面に入っている。

EUにおけるイタリアの役割とは? 経済危機【第一回】

EUにおけるイタリアの役割とは? 経済危機【第一回】

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参考:
移民 難民 ドイツ・ヨーロッパの現実2011-2019 世界一安全で親切な国日本がEUの轍を踏まないために 川口 マーン 惠美 (著)
イタリアの移民法 萩原 愛一(著)
現代イタリアを知るための44章 村上 義和 (著)
イタリア現代史 第二次世界大戦からベルルスコーニ後まで 伊藤武 (著)

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