戦後から現代までの日本史【第一章/第四回】

1.4 女性の権利と社会進出の始まり

目次

戦後から現代までの日本史:経済復興・文化・政治・社会の変遷【第一章/第三回】

戦後から現代までの日本史:経済復興・文化・政治・社会の変遷【第一章/第三回】

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1.4.1「おまけ」から「主役候補」へ

戦後日本の社会において、最も劇的な変化のひとつが、女性の権利拡大である。戦前の日本では、女性は家の付属物扱い。男尊女卑は制度としても文化としても完全に染み込んでおり、女性の人生とは「家父長制の下で、忍耐と奉仕を美徳として生きること」とされていた1。実際、法律上も「家」の一員にすぎず、結婚、離婚、相続など多くの面で極めて制限的な立場に置かれていた。つまるところ、国家レベルで「おまけ扱い」だったわけである。


だが1945年の敗戦を境に、この「おまけ」がにわかに主役候補に浮上する。というのも、GHQが戦後改革の一環として掲げた柱の一つに「女性の権利の保障」が含まれていたからである。アメリカ的な価値観からすれば、女性に参政権がないなんて前時代もいいところ2

マッカーサーの側近たちは、「それじゃ民主主義とは言えない」と強く主張し、日本政府に急ピッチでの制度改革を求めた。日本側はというと、「え?そこまでやるの?」と戸惑いつつも、GHQに反対する余地もなく、しぶしぶ動き始める。結果として、戦後の日本女性は「急に自由になった感」を味わうことになる。

1.4.2初の選挙と憲法による法的平等

象徴的なのは1946年の衆議院選挙である。日本の女性に初めて参政権が与えられたこの選挙では、女性の投票率はなんと66.9%3。この驚異の数字は、長らく政治から排除されていた女性たちの渇望と好奇心を反映している。同年には39人の女性議員が当選し、日本の国会に初めて「女性の声」が届くようになった。戦前ならまずありえなかった光景である。昨日まで家で洗濯板を叩いていた主婦が、今日は国会で法律を叩いている――社会の価値観が、まさに地殻変動レベルで揺れた瞬間だった。


さらに、日本国憲法の制定によって、法的な男女平等も保障されることになる。第14条では「すべての国民は法の下に平等」とされ、第24条では「婚姻は両性の合意に基づいて成立し、夫婦が平等の権利を有する」と明記された4。もはや名文句。「両性の合意」とかいう、戦前の家制度から見れば革命的すぎる概念が、いきなり憲法にぶっ込まれたのである。戦前の男たちがこの条文を読んだら、ショックで寝込むか、たぶん茶碗を投げる。

1.4.3法と現実のギャップ、それでも前進

とはいえ、これらの法的整備がすぐに社会の現実を変えたかというと、それはかなり怪しい。むしろ法律と現実のギャップは相当大きく、女性の権利が「紙の上の理想」として漂っていた面は否定できない。表向きは平等でも、会社に入ればお茶くみ要員、家庭に戻れば「女は黙って三歩下がる」。昭和社会の根底には、相変わらず「男が外で働き、女は家を守る」という暗黙のルールが居座っていた5。要するに、「選挙権はあげるけど、社会的なパワーはまだ渡さないよ」っていう、極めて日本的な“気配り型差別”である。


それでも、女性の社会進出が本格的に始まったことは間違いない。教育の機会は広がり、大学への進学率も徐々に上昇、看護師・教員・公務員といった専門職に女性が増えていく。戦後の復興とともに、女性の労働力も欠かせない存在となり、家庭外での役割が徐々に増していく。ただし、給料は男性より低い、昇進はしにくい、セクハラは言語化すらされていない、というトリプルコンボ。「社会進出」とは名ばかりで、現実は「戦地に送り込まれる先発隊」みたいな状況でもあった。


戦後女性が手に入れた「権利」という概念は、ゆっくりと、だが確実に社会に浸透していく。母親世代が投票所に行き、娘世代が大学に行き、孫の世代が企業で働き、そして現代に至る。最初は法律の中だけだった平等が、社会の構造や意識にも波紋のように広がっていくさまは、静かだが確かな革命だった。


総じて言えば、戦後の女性解放は「突然の自由と、それに追いつかない現実」というアンバランスな状態から始まった。GHQに急かされようが、日本政府が嫌々動こうが、あの1946年の一票が確かに新しい時代の扉を開いた。それから数十年、平等は依然として“完成形”ではないが、あのとき一歩を踏み出さなければ、今の日本社会はもっと息苦しいものだっただろう。


…まあ、現代でも「ジェンダーギャップ指数」がぶっちぎりの低さなんだけど6。先進国の皮をかぶった昭和の亡霊って感じで。でもとにかく、あの一歩は、本当に、でかかった。

戦後から現代までの日本史:経済復興・文化・政治・社会の変遷【第一章/第五回】

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参考:

日本占領史1945-1952 – 東京・ワシントン・沖縄 福永 文夫 (著)

戦後日本の女性政策 横山 文野 (著)

ポスト戦後日本の知的状況 (講談社選書メチエ) 木庭顕 (著)

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