戦後から現代までの日本史【第七章/第一回】

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7. 東日本大震災と平成の終わり(2011〜2019):価値観の転換

東北地方太平洋沖を震源とするマグニチュード9.0の巨大地震が発生し、その後の津波、原発事故によって、未曾有の災害が日本列島を襲った。

この「3.11」は、単なる自然災害ではなく、国の構造、政治、経済、文化、人々の価値観すら揺るがせた出来事だった。

昭和から平成へと続いていた「便利で、安全で、安定した日本」という幻想は、この瞬間にあっけなく壊れた。

津波は防波堤を越え、原発は爆発し1、国家の危機管理体制は混乱2

テレビには、政府の曖昧な説明、情報の錯綜、そして現場で奮闘する自衛隊とボランティアたち。「この国は本当に大丈夫なのか?」という疑念が、社会全体に浸透していく。

だが同時に、3.11は**「人は一人では生きられない」という事実を、これ以上ないほど明確に見せつけた日でもある。

避難所での助け合い、被災地への支援、募金、救援物資、現場へ向かうボランティア――バラバラだと思っていた社会が、つながりを必要としていることを実感した瞬間だった3

この第7章では、東日本大震災がもたらした物理的被害を超えた“社会の深層的揺さぶり”**に注目する。

「原発」や「災害」だけではなく、「経済再生の幻想」4、「働き方の再設計」5、「文化の変質」6、「平成という時代の意味」まで、価値観の終焉と模索のプロセスを追っていく。

平成という時代が終わるまでの数年間、日本社会は変わったのか?

それとも、変われなかったのか?

そして、「失われたもの」とは、いったい何だったのか。

7.1 3.11の衝撃と原発問題

目次

7.1.1 東日本大震災の概要と福島第一原発事故の発生

2011年3月11日、午後2時46分――

宮城県沖を震源とするマグニチュード9.0の巨大地震が発生し、東北地方沿岸に高さ10メートルを超える大津波が襲いかかった。

これが後に「東日本大震災」と呼ばれる災害であり、日本史上、いや世界史レベルでも最大級の複合災害の一つである7。だが、本当の地獄は、地震や津波の後に始まった。

そう、福島第一原子力発電所の事故である。

巨大地震と津波によって電源系統が完全にダウンし、冷却不能に陥った原子炉はメルトダウン(炉心溶融)を起こし、次々と水素爆発を引き起こす8

爆発する原子炉建屋の映像が全国に流れ、誰もが息を呑んだ。

「これ、チェルノブイリなのでは?」

それが、当時の日本中の素直な感想だった。

7.1.2 原発事故対応と失われた国家への信頼

何が問題だったのか?

まず第一に、政府と東京電力の対応の遅れ、そして情報の不透明さである。

「爆発ではあるが、原子炉には異常はない」

「健康にただちに影響はない」

などの“逃げコメント”が繰り返され、国民の不安はさらに悪化9

避難指示は後手後手で、被ばくリスクのある地域に長時間人が残される事態となった10

つまり、危機の渦中にあって政府も電力会社も、「何が起きているのか」「誰が責任を取るのか」「どう収束させるのか」が答えられなかった。

その結果、国民が失ったものは、単なる「安心」ではなく、「国家の機能への信頼」そのものだった。

7.1.3 原発神話の崩壊と社会の分断

さらに、原発に依存してきた日本のエネルギー政策の脆弱さも露呈した。

原子力は「安全・安価・安定供給」とされてきたが、その神話は完全に崩壊11

何が「想定外」だったのか。地震か? 津波か? 電源喪失か? 対応の甘さか?

全部である。

実は、どれも「起きうる」と予想されていたにもかかわらず、都合よく無視されていたことが次々と明るみに出た12

加えて、放射線への不安が社会を分断していく。

福島産の農産物や水産物に対する風評被害、避難した人々への差別、被災者同士の対立、そして「安全派」VS「脱原発派」の政治的な分裂。

科学的データの正確な発信ができず、「信じる・信じない」の感情の世界に議論が落ちていった。

この事故をきっかけに、日本では原子力発電への批判が高まり、全国の原発が次々と停止。

電力供給への不安から節電が奨励され、「冷房を使うな」「ネオンを消せ」みたいな空気が街を包む13

そう、震災は都市の景観すら変えた。

そして、国全体が「脱原発か、再稼働か」という二項対立に縛られていく。

でも実際には、それ以上に問われていたのは――

「なぜこんな不確かな技術にエネルギー政策を委ねてきたのか」という根本の問いだった。

震災と原発事故は、日本社会のあらゆる“依存構造”の限界を突きつけた。

・国が何とかしてくれるという幻想

・大企業は正しい判断をするという信頼

・専門家が言うことは正しいという前提

・安全神話に頼って先送りしてきたエネルギー政策の怠慢

すべてが一気に吹き飛んだ。

そして、残ったのは被災地と社会に広がる“不信”と“見えない不安”だけだった。

3.11はただの天災ではない。

それは、「国家運営における自己責任の時代の始まり」だった。

もはや、国も企業も何かを完全には守ってくれない。

だからこそ、人々はこの時を境に、自分で考え、選び、備える必要性に気づき始める。

戦後から現代までの日本史【第七章/第二回】

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参考:
戦後日本経済史 日本経済新聞社 (編集)
平成はなぜ失敗したのか 「失われた30年」の分析 野口悠紀雄(著)
3・11 大津波の対策を邪魔した男たち 島崎邦彦 (著)
「想定外」の罠 大震災と原発 柳田邦男 (著)

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