
7.3 アベノミクスと経済政策の評価
目次
7.3.1 アベノミクスの三本の矢とは?金融緩和・財政出動・成長戦略の中身
2012年末、安倍晋三が再び総理大臣に就任すると同時に、日本経済には唐突なキャッチコピーが登場する。
その名も――アベノミクス。
ネーミングからしてすでに“売る気満々”。安倍(Abe)とエコノミクス(Economics)を無理やり合体させたこの政策パッケージは、要するに「経済をなんとかするぞ!のフルセット」である1。
で、その中身。基本的には「三本の矢」と呼ばれる政策にまとめられていた:
- 大胆な金融緩和(日銀がお金を刷りまくる)
- 機動的な財政出動(政府が支出して景気を刺激)
- 成長戦略(民間の活力を引き出して長期的に経済成長)2。
このうち、特に最初の一本目――金融緩和は、マジでインパクトがあった。
黒田東彦が日銀総裁に就任し、「異次元の金融緩和」が実行されると、
- 円安が進行(1ドル=80円台 → 120円台へ)
- 株価が上昇(日経平均8000円台 → 2万円超へ)3
と、マーケットは一気に“アベノミクス祭り”モードに突入。
企業の決算も改善、観光業もインバウンド特需で潤い、雇用統計は徐々に回復傾向。
これだけ見ると「うわ、なんか日本、復活してない?」という気がしてくる。
テレビは連日「アベノミクス効果!」を報じ、
ビジネス誌は「次に来る銘柄」「これが勝ち組の生き方」特集を乱発、
投資系YouTuberの前身たちが歓喜し始める頃である。
7.3.2 格差拡大と実感なき景気回復の実態
だが、ここからがアベノミクス最大の問題。
「それ、誰が得してるの?」という、極めて根本的な問いである。
たしかに、株価は上がった。大企業の業績は伸びた。求人倍率も改善した。
でも、庶民の実感がまったくついてこない。
つまり、数字だけが好景気を演じている状態であり、現場はあいかわらず「節約生活+将来不安」にどっぷりだった。
「トリクルダウン(富が上から滴り落ちてくる)」どころか、上層階でシャワーが出てる音はするのに、1階には一滴も届かないという現象が続いた。
また、成長戦略と呼ばれた三本目の矢については、「一体何をしたのか分からない」問題が根強い。
規制緩和、農業改革、女性活躍、地方創生――どれも耳障りはいいが、実効性は薄く、
「戦略」ではなく「スローガン集」に終わった感が否めなかった7。
加えて、財政出動や社会保障制度の立て直しについては、
消費税増税(5%→8%→10%)など国民負担だけが先行し、
生活実感としてはむしろ「負担が増えたけど、何が良くなったか分からない」という声が強まった。
7.3.3 アベノミクスの評価とその限界:成果と課題の総括
要するに、アベノミクスとは、
- 株を持っている人には天国
- 都市のインバウンド業界にはボーナスタイム
- 大企業には追い風
- それ以外の人には「で、うちは何か得しましたっけ?」という謎の置き去り感
を生み出した経済政策だった。
そして2019年に入ると、世界経済の減速や米中貿易摩擦、消費税10%などの影響で、アベノミクスの“魔法”も明らかに揺らぎ始める8。
インフレ率は日銀の目標である2%に全然届かず、結局、「金は大量に供給したけど、みんな使わなかった」という事実だけが残る9。
要するに、日本社会にはカネよりも希望と将来への信頼が欠けていたという話でもある。
まとめると、アベノミクスは「景気回復の演出には成功したが、分配と構造改革には失敗した」政策だった。
バブル崩壊後、20年も低迷し続けた日本経済にショックを与えた功績はあるが、
その果実を実感できたのはごく一部。
“経済は回ったが、生活は良くならなかった”という、なんとも切ない景気回復の風景である。
参考:
戦後日本経済史 日本経済新聞社 (編集)
平成はなぜ失敗したのか 「失われた30年」の分析 野口悠紀雄(著)
アベノミクスの真実 本田 悦朗 (著)