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6. リーマンショックと世界経済危機(2007〜2011):グローバル化の罠

2008年9月、アメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻し1、世界は「あ、これはヤバいやつだ」と一瞬で察する。グローバル金融の心臓部がいきなり止まったような衝撃だった。世界中の株価は急落し、資金は凍りつき、経済はまるで氷河期のカタログセールみたいに冷え込んだ。

このリーマンショックは、「アメリカの問題」ではなかった。むしろそれは、日本が完全に巻き込まれる構造を自分で選んだ後だったという点がポイントである2

バブル崩壊から何とか立ち直りかけていたところに、外から巨大な崩落が直撃。しかも今回は、「日本発じゃない」ので、コントロールがきかない。地雷を踏んだのは他人、でも爆発の直撃を食らったのはこっち。これが“グローバル化”の現実だった。

2000年代に入り、世界経済は急速に統合されていた3。日本企業もアメリカの金融市場に投資し、製品を世界に売り、資本とモノの移動に積極的に乗っかっていた。

が、リスクも輸入されるとはあまり考えていなかったっぽい。「世界とつながる」という言葉が、まさか“世界の崩壊に巻き込まれる”意味でもあるとは、さすがにパンフレットに書いてなかった4

この章では、アメリカ発の危機が日本にどう波及し、どう受け止められたのかを検証する。
雇用、金融、社会保障、政治、国民心理――「他人の失敗が自分の地盤を崩す」グローバル社会の構造的な脆さが、ついに本格的に可視化された時代だった。

6.1 アメリカ発金融危機と世界への波及

目次

6.1.1 リーマン・ブラザーズ破綻と世界金融市場の崩壊

2008年9月15日、アメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻した5
それは単なる「ひとつの企業の倒産」ではなく、グローバル資本主義が自爆ボタンを押した瞬間だった。
破綻のニュースは世界中を駆け巡り、株価は大暴落、信用市場は凍結、企業は資金繰りに窒息し、世界中の経済が同時多発的にクラッシュし始めた。

人類はこのとき初めて本格的に、「金融って、止まると全部終わるんだな…」と実感することになる。

では、なぜアメリカの銀行が潰れただけで、世界が阿鼻叫喚になったのか?
答えは、サブプライムローンである。
これは、信用力の低い(sub-prime)人々に貸し出した住宅ローンのこと。
貸した側は「返せないかもしれないけど家を担保に取ってるから大丈夫っしょ」と軽く考え、
そのローンをパッケージにして金融商品として売りまくった。

これを証券化商品(MBS、CDOなど)というのだが、もはや住宅ローンとは思えないくらいの変態的複雑さ6
この紙切れが「高利回り・低リスク」と評価され、世界中の金融機関が買いまくった。魔法の金融ミックスジュースである。

6.1.2 サブプライムローンの崩壊と信用不安の連鎖

でも当たり前だけど、返せない人が大量に出始めると、この構造は即死する。
住宅価格は暴落、担保価値は消滅、金融商品の価格は一気に0に近づき、「あれ…オレたち、何に投資してたんだっけ?」状態に突入する。

このサブプライム危機が火種となり、まずアメリカの銀行が連鎖的に資本を失っていく。
その頂点にいたのが、リーマン・ブラザーズだった。
1850年創業、社員2万人超、資産総額60兆円以上の超巨大金融機関が、わずか数日のうちに「誰も助けません」宣言とともに、パキッと折れるように破産した7

これを機に、世界中の投資家と銀行が一斉にビビり散らかし、「誰も信用できない」金融氷河期に突入する。

そして問題の本質はここからだ。
リーマンが落ちた後、アメリカだけじゃなく、ヨーロッパ、日本、アジア、どこもかしこも「信用の砂上」に立っていたことが判明する8

各国の金融機関もサブプライム関連商品を抱えていたし、株価が下がれば年金も吹っ飛び、企業の資産価値も減り、消費も投資も停止。
「誰かが死ぬと、みんなで倒れる」構造がグローバル経済の正体だった。

6.1.3 リーマンショックが日本経済に与えた深刻な影響

そして日本。
直接の原因を作ったわけではないが、しっかり巻き込まれる準備だけは完璧だった9

  • 輸出依存の大企業は、世界需要の崩壊とともに業績急減
  • 派遣社員・契約社員が大量に解雇(後の“派遣切り”)
  • 株価暴落で年金・資産運用にダメージ
  • 企業の設備投資・採用が凍結

「グローバル経済で生きるとは、他人の経済の失敗で自分の生活が崩れること」を、日本中が実感することになる。

当時の政府は、「日本は金融面では健全だから大丈夫」などと気休めを言っていたが、企業と雇用の現場は即時に悲鳴。
トヨタですら赤字を出し、ソニーは数千人規模の人員削減。中小企業に至っては、貸し渋り+受注減+在庫地獄というトリプルコンボで、倒産が急増した10

そう、リーマン・ブラザーズの死亡報告は、日本企業の死亡フラグでもあったのだ。

そして、この危機はただの経済問題にとどまらない。
格差は広がり、雇用は不安定化し、非正規は生活基盤を失い、「自己責任論」では片付かない人々が社会にあふれる11

この後、日本は“失われた10年”のリマスター版のような時代に入っていくことになる。

戦後から現代までの日本史【第六章/第二回】

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出典:
戦後日本経済史 日本経済新聞社 (編集)
平成はなぜ失敗したのか 「失われた30年」の分析 野口悠紀雄(著)
政党政治の混迷と政権交代 樋渡 展洋 (編集), 斉藤 淳 (編集)
最新版 改正労働者派遣法がわかる本 【全条文付】 大槻 哲也 (監修), 加藤 利昭 (著)
リーマン・ショック・コンフィデンシャル上 追いつめられた金融エリートたち 上下 アンドリュー ロス ソーキン (著), 加賀山 卓朗 (翻訳)
日本銀行と政治 金融政策決定の軌跡 上川龍之進 (著)
日銀漂流 試練と苦悩の四半世紀 西野 智彦 (著)
リーマン・ショック 元財務官の回想録 篠原 尚之 (著)
政権交代の内幕 上杉 隆 (著)
民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか? 神保 哲生 (著)

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