EUにおけるイタリアの役割とは? 経済危機【第一回】

目次

1. イタリア経済とEUの中での課題と可能性

イタリアは、ヨーロッパ連合(EU)の中でもとりわけ興味深いポジションに位置している。なぜなら彼らは、古代ローマ帝国の遺産を背負った誇り高き国家である一方、現代では「経済的に心配な友人」扱いされがちだからだ。EUにおける経済的な重鎮の一員であることは間違いないのだが、その中身は一筋縄ではいかない。特に財政赤字、慢性的な経済停滞、政治的混乱という三重苦に直面しながらも、イタリアはEUという船の中で、独自の役割と可能性を模索している。


1-1. ユーロ圏第三位の経済大国:イタリアの実力とは

イタリアは、GDPベースでユーロ圏第3位、EU全体でもドイツ、フランスに次ぐ経済大国である。2025年時点での名目GDPは約2兆2,800億ユーロ。製造業、観光業、農業、サービス業など多様な産業がバランス良く展開されており、その産業構造は「バラバラだけどなんとなく回ってる」という奇跡的な安定感を保っている。

特筆すべきは、地域的な経済差を抱えつつも、北部の産業地帯――ロンバルディア州、ヴェネト州、エミリア=ロマーニャ州――においては、ドイツのライン=マイン地域に匹敵する1製造業クラスターが存在することだ。機械、自動車、医療機器、化学製品といった高付加価値製品を輸出しており、イタリアの対外競争力を支えるエンジンとなっている。

そして観光産業。これはもう、イタリアという国が「生まれながらの観光地」なので、地球上の他国が涙を流してうらやむ存在だ。ローマ、フィレンツェ、ヴェネツィア、ミラノといった世界的都市に加え、アマルフィ海岸やトスカーナの田園風景に至るまで、何もしなくても観光客が湧いて出る。観光収入はGDPの13%超、雇用でも全体の10%を超えるという、ある種「文化的キャッシュマシーン」としての機能を果たしている2


1-2. イタリアの財政赤字問題とEUの対応

イタリアといえば、歴代政府が頻繁に交代しており、そのたびに経済改革は「次の内閣で本気出す」という先送り文化が続いてきた3。公的債務はGDP比で140%超え、これはもうEUの中でも「経済ダイエットに絶対失敗する人」のポジションである。

この財政赤字の背景には、年金や医療といった社会保障費の増加、そして景気刺激策と称する「バラマキ体質」が根強く影響している。税収が伸び悩む一方で、支出は増えるばかり。これは、収入がないのに高級車をローンで買い続ける人と同じ状況だ。しかもそれを政治家たちが「必要な投資です!」と叫びながらやっている。

EUとしては、この放漫財政を黙って見過ごすわけにはいかない。マーストリヒト条約によって定められた「財政赤字はGDPの3%以内」というルールに照らせば、イタリアは常にレッドカード寸前。何度も警告を受け、「構造改革をしろ」とのお達しが出されるたびに、イタリアは「わかってる、でも今ちょっと無理」と答える――もう完全にダメなムーブである。

それでも最近では、EUのコロナ復興基金(Next Generation EU)を活用して、公共投資やデジタル化、グリーン経済への移行を進める計画が始動している。イタリア政府はこの基金から最大2000億ユーロを受け取る予定であり4、もし使い方を間違えなければ、立て直しの千載一遇のチャンスとなるだろう。もし間違えなければね。


1-3. 中小企業と「メイド・イン・イタリー」ブランドのEU市場での影響力

イタリア経済の「隠れた主役」と言えば中小企業群。いわゆるPMI(Piccole e Medie Imprese)は、全企業の99%以上を占め、雇用の大部分を支えている5。日本でいう「町工場」が、こちらでは革靴、チーズ、精密機械、ラグジュアリーファッションに至るまで、ヨーロッパ中を唸らせる製品を生み出している6

「メイド・イン・イタリー(Made in Italy)」というラベルは、単なる原産国表示ではなく、品質、スタイル、クラフトマンシップの象徴である。ミラノのスーツ、フィレンツェの革製品、モデナのバルサミコ酢…。どれを取っても、ヨーロッパ内外で高い評価を得ている。

EU市場においても、このブランド力は非常に重要なソフトパワーだ。ドイツが「精密工業」、フランスが「高級嗜好品」で攻めるなら、イタリアはその間を縫うように「美と実用の融合」で差別化している。しかも、その担い手が大企業ではなく家族経営の企業群であるというのが、この国のいびつで面白いところ。

しかし、デジタル化やグリーントランジションといったEU全体の経済潮流において、イタリアの中小企業が対応に苦慮しているのも事実。古き良き手仕事の国に、クラウドやAIを無理やりねじ込もうとしても、なかなかうまくいかない。Excelで請求書を出すのも怪しいおじいちゃんに、サイバーセキュリティを教える日が来るとは、誰が想像しただろう。とはいえ、「メイド・イン・イタリー」の影響力は、EU内での文化的・経済的結びつきを深めるうえで極めて重要だ。経済成長率が低迷していても、このブランド力がある限り、イタリアは“見捨てられない存在”であり続ける。

EUにおけるイタリアの役割とは? 移民政策【第二回】

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記事を読む
参考:
イタリアの経済: メイド・イン・イタリーを生み出すもの 馬場 康雄 (編集), 岡沢 憲芙 (編集)
イタリア病の教訓 松本 千城 (著)
パスタでたどるイタリア史 池上 俊一 (著)
はじめて学ぶイタリアの歴史と文化 藤内哲也 (編集)
イタリア現代史 第二次世界大戦からベルルスコーニ後まで 伊藤武 (著)

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