
目次
3. イタリア文化とEUアイデンティティへの貢献
ヨーロッパ文化の骨格を形づくった存在のひとつ、それがイタリアである。
古代ローマ帝国の支配、ルネサンスの興隆、教会と芸術の蜜月関係。もはやイタリアがいなければ、ヨーロッパの歴史教科書は3割くらいスカスカになる勢いである。
とはいえ、歴史的遺産や美的センスを持っているだけで「EUに貢献してます!」と言えるわけではない。重要なのは、それがいま現在、どれだけ統合の要素やアイデンティティの支柱として機能しているか、ということ。
イタリア文化は、ハードパワーじゃない。だけど、EUが共通の価値観や帰属意識を作るうえで、ソフトパワー的1にものすごく重要な役割を果たしている。
以下、世界遺産、ファッション・デザイン、そして料理という三大カルチャー攻撃で、その影響力を見てみよう。
3-1. 世界遺産最多国:イタリア文化遺産のEU内での存在感
イタリアには、2024年時点で58件のユネスコ世界遺産が登録されている2。これは世界最多。EUどころか、世界でトップ。なんかズルくない?フランスやスペインが泣いてる。
コロッセオやパンテオンに始まり、ルネサンス都市フィレンツェの街並み、ベネチアの運河、ナポリの歴史地区に至るまで、イタリアのあちこちが「文化財のテーマパーク」状態。
この文化遺産の保有量は、EUの文化的アイデンティティ形成に大きく貢献している。「我々ヨーロッパ人には、これだけの歴史と美があるんだぞ」という誇りを象徴するのがイタリアなのだ。だから、EUの文化外交イベントでもしょっちゅう引き合いに出されるし、ユネスコ関連でもイタリア代表は割と声がでかい3。
しかもこうした遺産は観光業だけじゃなく、教育・研究・市民交流にも活用されている。イタリアの美術館や遺跡は、EU内の文化プログラム(例:エラスムス+)でも重要な拠点4。「美の力でEUをまとめる」という、なにそのファンタジー?みたいな計画を、半ばマジでやってる。
3-2. ファッション・デザイン産業で支えるヨーロッパ文化力
次に、イタリアのファッションとデザイン。ここで「ミラノ!」って即答するのは正解だが、ちょっと浅い。
ミラノはファッションの聖地ではあるけど、イタリアのデザイン力ってそれだけじゃないんだ。
家具、工業製品、自動車、キッチン家電に至るまで、イタリア製品は「機能美」と「職人技」の融合体としてヨーロッパ文化の価値観を形にしてきた。アルネ・ヤコブセンの椅子よりも、カッシーナの家具を選ぶ人が多いのは、単に見た目の話じゃない。そこにある「生活を芸術にする」という哲学が評価されているからだ。
EUとしてもこの分野の価値は重視しており、イタリアのデザイン教育や製造業は文化産業支援政策の中心に位置づけられている5。
しかも、ファッション業界のサステナビリティ問題においても、イタリアの職人文化は重要な答えを提示している。大量生産じゃなくて、長く使える高品質なものを作る。あたりまえのようで、現代にはかなり革新的な思想だ。
イタリアは「美しく生きる」ことをビジネスにしている国なので、EUが文化と経済の両立を目指す際、彼らのアプローチはまさにお手本。
3-3. イタリア料理と食文化外交:EU統合の“やわらかい力”
最後に、みんな大好きイタリア料理。ナポリのピッツァ、ボローニャのラザニア、ジェノヴァのペスト…この辺になると、説明しなくてもEU市民のほぼ全員が知っているレベルで文化が浸透している。
イタリア料理の恐ろしいところは、「これ食べればだいたい機嫌が良くなる」という外交兵器になっていること。
EUの中で文化外交という概念が語られるとき、イタリアの食文化は完全に主役級だ。
なんなら、欧州委員会のパーティーでもケータリングがイタリアンの時は雰囲気が良くなる、みたいな都市伝説がある6。
これはもう単なる食ではなく、「味覚を通じた文化統合」だ。すごいよね?食べさせて黙らせるという、最古の平和戦略が現代でも機能してるんだから。
さらに、地理的表示保護制度(PDO/PGI)においても、イタリアはEU内で最多の登録数を誇る7。つまり「このチーズは本当にあの村で作られてるのか?」というレベルで、文化と経済が直結しているわけ。EUの食卓にイタリアがなかったら、かなり味気ない。あと怒る人も多い。
この「やわらかい力」は、硬直しがちなEUの議論の中で、国家間の理解を促す潤滑油になっている。硬派なドイツ人がリゾットでニッコリ、気難しいフランス人がカンノーロでご満悦。すごい。言葉は通じなくても、カルボナーラは通じるんだ。
参考:
イタリア文化 55のキーワード 和田 忠彦 (編集)
はじめて学ぶイタリアの歴史と文化 藤内哲也 (編集)
パスタでたどるイタリア史 池上 俊一 (著)
イタリア現代史 第二次世界大戦からベルルスコーニ後まで 伊藤武 (著)